都電荒川線は東京都に残る唯一の都電である。
かつては都内を縦横無尽に縫うように走っていた都電だが、自動車交通の発達と共にその歴史は縮小の一途をたどった。
そしてただ1系統残ったのが三ノ輪橋と早稲田を結ぶこの都電荒川線のみとなったのだ。
そこで本日よりそんな都電の残された風景を公開していこうと思う。
現在30の停留所があり、そのひとつひとつの停留所近辺を「都電がある風景」として紹介することにする。
第1回の今日は「熊野前」である。
この停留所の近くには熊野前商店街があり、その入り口の風景がこれである。
もう誰も住んでいない木造住宅がそこにあった。
まるで過去と現在が交差する不思議な空間のようなこの風景に私はしばし時を忘れ、思いを巡らせた。
この家屋はどれだけの行きかう人々と都電の車両を見送ってきたのだろうかと。
看板には「処方調剤」と薄っすらと書かれたものが判別できたので薬局だったのだろう。
商店街の入り口という立地条件なので、おそらく昔はたくさんの人で賑わったのだと思う。
しかしもう生活の匂いがすることのないこの家屋は黙して何も語らないず、じっと消え去るのを待つのみだ。
もしかしたら近い将来この家屋はその存在をなくしてしまうかもしれない。
だが、この日この時この瞬間、ここでこの家屋の都電と共に歩んだ歴史を感じた私は、この風景をきっと忘れることはないだろう。
Nikon D40x