吉井仁実さんの「現代アートバブル」を読みました。
本書は現代アートとはどういうものなのか、また現代アートを取り扱うギャラリーとは何かについてわかりやすく丁寧に解説されたものです。
まずは目次を見てみましょう。
第1章 現代アートの潮流
第2章 アートマーケットの現状
第3章 自分と世界を知るヒント
第1章では現代アートが時代と共にどのように形を変えてきたかを評論しています。
主に911前後で世界が劇的に変わったことと、現代アートもそこにリンクして変化していることが主張されています。
現代アートが人々の営みと切り離すことができないものであり、その中で新たな息吹が誕生することはなんとなくわかるのですが、やや観念的な話が続くので、この章は僕のようなアート初心者は読み飛ばしても問題ないところだと思います。
アート評論に関心がある方はしっかりと読むといい章でしょう。
第2章から読み始めても本書の内容は理解できると思いますよ。
さて、第2章ではギャラリストとはどのような仕事であるかが紹介されており、僕らのような鑑賞者とアーティストをつなげる存在であるギャラリストの重要性が解説されています。
これまでのイメージだとギャラリーを開設すると、放っておくと自然とそこに展示したいアーティストが集まるものだと思っていたのですが、当然ながら全くそのようなことはありません。
ギャラリストが自分の足と目で新人アーティストを発掘し、そしてリスクを考えつつも自らアートマーケットへと売り出していくのです。
そこでアート収集家や他のギャラリストに目がとまった作品が買われていき、そのアーティストの評判が上昇し、そして作品の値段が上がっていくのです。
我々鑑賞者がアーティストの作品を目にするのはまさにギャラリストの目利きによるのです。
もちろんアーティスト個人が実施する展覧会というのもありますが、規模が小さくたくさんの人に知られることもなく、ましてや世界的なコレクターの目に留まるということもないでしょう。
そう言った意味でギャラリストは先見の明があると同時に優秀なマネージャーでなければならないと思いました。
第3章では現代アートとの付き合い方が解説されています。
見るのはもちろんですが、所有する楽しみについて力説されています。
著者の吉井さんが作品を購入する基準は3つあるそうです。
1.そのアーティストに将来的な広がりが見えるか
2.美術史の流れや、自分が依って立つ社会への問題意識に基づいて、新しいチャレンジに向かっているか
3.自分自身の社会的な立ち位置、アイデンティティに対する深い眼差し
この3つの項目というのはアートに限らず他の分野についても当てはめることができるのではないでしょうか。
歴史を無視した独りよがりのものを「個性」と言っても、それは全く魅力を感じないものです。
この3つをしっかりと見る目を持っている人は、他者を評価するだけでなく、自分自身をも客観的に見ることができる能力を持っているのではないのかとも思います。
というこを考えながら、アートについて書かれた本でしたが、アートだけではなく人生についても学ぶことができた印象を持ちました。
アートに関心がある人は必読なだけでなく、へたなビジネス本よりもよりビジネスに役立つことが書いてあると思いますよ。
お勧めの1冊です。
以前紹介した小山登美夫さんの「現代アートビジネス」と合わせて読むとさらに理解が進むと思います。
現代アートビジネス (アスキー新書 61) (アスキー新書 61)
小山 登美夫
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この記事の筆者は徳富政樹(とくとみ)です。ブロガー、街歩き案内人、なんちゃってフォトグラファー。日本全国を旅しながら写真撮影をしています。マニアックな場所や美味しいもの、鉄道、井戸ポンプ、ネコが好きです。トップページ | 旅の全記録 | フォトウォーク | 登山の全記録
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