街の中にある廃墟に異空間的畏怖を感じることがあり、最近歩いているとその姿を探している自分に気がつくことがよくあります。
いつの頃か廃墟にロマンと哀愁を求め捜し歩くようになりました。
特に鉄道の廃線跡に歴史の重みを感じ、よくネットで検索をしたりしています。
そんな廃墟、廃線好きな僕が大満足する1冊に出会ったのです。
それは、丸田祥三さんの「鉄道廃墟」です。
丸田さんは写真家で、本書には廃線跡、そして本来展示物であった車両がいつの間にか朽ち果てて自然に返りつつある姿が多数収められています。
その写真は幻想的でこの世のものとは思えないファンタジー要素が含まれていたり、もう絶望しか残されていない最後の断末魔さえも表現されたりしています。
単なる資料写真ではなく、廃線、廃車両が歩んできた時代と、運んできた乗客と貨物の総和が飽和状態になり自らではもう制御できなくなってしまい崩壊状態になってしまったかのような悲哀が感じられます。
例えば多摩ニュータウンの森の中に誰からも忘れ去られてしまった都電の車両の写真があるのですが、塗装は剥げ、窓のガラスはなくなり、腐食し穴だらけのボディがまるで人間のミイラかのような姿をしているのが哀しみいっぱいに写されているのです。
それは自らの使命を成し遂げた満足感ではなく、人々の記憶からその姿が完全に消えてしまう哀しみが都電の車両から発せられているようでありました。
たった1枚の写真に僕は時間を忘れて見入ってしまい、気がつくと体の熱が全て放出されてしまったように呆然としていました。
これほどの力を持った写真に出会ったのは初めてだったのです。
本書に収録されている車両や廃線跡は現在ではほとんど実際に見ることはできなくなっているでしょうが、ぜひ自分の目でもその姿を見て、丸田さんが表現した世界を体感してみたいと思いました。
人から忘れられてしまった風景の悲哀に完全にはまってしまいました。
また本書は写真ではなくエッセイ集でもあり、それぞれの写真にまつわるエピソードが記述されています。
その言葉の表現も詩的で歴史を感じさせるものであるので、読み物としても一線級のものだと思います。
今年読んだ本で間違いなくナンバー1と言える本だとお断言できるのが、この丸田祥三さんの「鉄道廃墟」だったのです。
ぜひ皆さんにも読んで、そして感じていただきたいと思います。
鉄道廃墟 (ちくま文庫) 丸田 祥三 |
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この記事の筆者は徳富政樹(とくとみ)です。ブロガー、街歩き案内人、なんちゃってフォトグラファー。日本全国を旅しながら写真撮影をしています。マニアックな場所や美味しいもの、鉄道、井戸ポンプ、ネコが好きです。トップページ | 旅の全記録 | フォトウォーク | 登山の全記録
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