1990年代初め、バブル経済真っ只中の東京は大きな変化を向かえていました。
震災、戦災、高度経済成長、東京オリンピックなどそれまでにも変化はあったものの、建物の巨大化という点ではそれまでとは違うものがあったと思います。
そんな時代の東京を歩き、エッセイとしてまとめたのがこの本です。
私説東京放浪記 (ちくま文庫)
小林 信彦
本書では12の街が取り上げられています。
表参道・原宿
赤坂・青山通り
六本木
渋谷
新宿
銀座周辺
日本橋・人形町ほか
神田周辺
上野・浅草
谷中・根津
横浜
逗子・葉山
神奈川県も含まれていますが、東京との関連で語られているので「東京放浪記」と名づけられています。
いずれも繁華街で人が多く集まる町です。
人が集まるからこそ町としての変化が大きく、激しいのでしょう。
本書で語られている変化が、約20年後の現在からみるとささいな変化ではなく、その後の変貌の方がはるかに大きいにもかかわらず、筆者にとっては90年代初めの当時の変化が劇的だという筆致が時代を感じてしまいます。
また筆者は1950年代からの東京の町に詳しいようで、その時代との比較も非常に興味深いところです。
例えば新宿と比較した70年代前半までの渋谷の記述を見てみると。
そのころ、渋谷はどうだったか?
渋谷もふるーい盛り場なのだが、なんといっても、狭すぎた。
たとえば、ここでデートをするとして、道玄坂を上って、おりれば、それでおしまい。
坂の途中に映画館があり、右側に百軒店という小道に入ると、そこにも映画館や名曲喫茶があった。
とはいえ、デートコースとしては、わびしい。
というような時代から、90年代の初めになると道が人の頭で真っ黒に見えるというように印象が変わってきています。
今では若者が集まる町としての渋谷は当たり前になっているのですが、70年から90年にかけて大きな変化があったのがよくわかります。
その他の町にも戦前から戦後にかけての変化が記述されています。
田舎町から大繁華街へと変貌を遂げた表参道・原宿、盛り場から転落した浅草など、その描写は詳細で町の様子が目の前に浮かんでくるようでした。
写真がなくてもここまで想像力を引き出してくれるのはさすが小林信彦さんだと思いました。
散歩好きにとってはかなりうれしくなる1冊だと思います。
ただ、繁華街ばかりに注目していて、その他の周辺にある町、例えば恵比寿、神楽坂、王子など、そういう町についての記述があったら僕としてはさらに楽しむことができたかも。
しかし、東京の代表的な町は網羅されているのでここで取り上げられた町でも十分おもしろいものになっていますよ。
小林信彦さんの「私説東京放浪記」についての詳細はこちらから。
→私説東京放浪記 (ちくま文庫)
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この記事の筆者は徳富政樹(とくとみ)です。ブロガー、街歩き案内人、なんちゃってフォトグラファー。日本全国を旅しながら写真撮影をしています。マニアックな場所や美味しいもの、鉄道、井戸ポンプ、ネコが好きです。トップページ | 旅の全記録 | フォトウォーク | 登山の全記録
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